
「ヤマアラシのジレンマ」または「ハリネズミのジレンマ」とは、他者の距離感に関する心理学用語であり、「ハリネズミのジレンマ」は"Hedgehog's dilemma"として、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」第4話の副題として登場し、有名になりました。
この他者との距離感については、人間にとって人種や時代も問わず、常に存在する問題です。
今回は、この非常に興味深い東西普遍の心理について考えます。
ヤマアラシ(ハリネズミ)のジレンマとは
ヤマアラシは、体に多くの長く鋭い棘をもつ草食動物です。
また、ハリネズミも体に多くの棘が生えているネズミの一種です。
この棘をもつという特徴から、ドイツの哲学者ショーペンハウアーの寓話に2匹のヤマアラシの話が登場します。
要は、他者との最適な距離感についての概念です。
それをオーストリアの精神分析学の創始者フロイトが精神分析の中で用いて、後にアメリカの精神分析医ベラックが「Porcupine's dilemma(ヤマアラシのジレンマ)」という名前をつけました。
ヤマアラシではなく、ハリネズミのジレンマとも言われるのは、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」第4話「雨、逃げ出した後」の副題として「Hedgehog's dilemma(ハリネズミのジレンマ)」として登場したことで、日本でも広く知られるようになりました。
お互いを傷つけ合わない最適な距離感をみつける2匹のヤマアラシの寓話

あるところに2匹のヤマアラシが住んでいました。
冬のある日、2匹は暖め合おうと寄り添いますが、体の棘のせいでお互いを傷つけ合ってしまいます。
寄り添いたいのに、近づけば近づくほど、自分の棘で相手を傷つけてしまうのです。
2匹は何度も何度も近づいては離れることを繰り返し、とうとう暖め合いながらもお互いを傷つけ合わない距離を見つけたのです。
他人と自分、最適な距離感

このヤマアラシ(ハリネズミ)のジレンマで起こる、他人との距離感が掴めないがゆえにお互いを傷つけてしまう、ということは誰にでも、いつの時代もあり得ることです。
現代でも会社や学校、友人、家族といった様々な環境の中で、この問題は日常的に発生します。
つまり自分以外の誰かが存在するから、その他者と関わろうとすれば、最適な距離感をみつける、ということはとても重要になってきます。
2匹のヤマアラシのように、何度傷つけ合っても、最後は良い距離感をみつけて丸く収まるのか、うまくいかずに離れてしまうのか、あるいは誰とも関わらずに引き篭もるのか、判断は人それぞれです。
アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」でも主人公の碇シンジは、散々傷つき、他人を否定し、逃げて引き篭もっても、他人などいない全てがひとつになる世界を最後の最後で否定します。
どれだけ傷ついても、自分以外の人間が別の個体として存在する世界を望むのです。
実際の世の中においても、何年引き篭もっていようと、ネットの世界では他者と繋がっている人は、自分以外の誰かとの繋がりは心のどこかで欲しています。
そして、リアルであってもネット上であっても、他者との繋がりこそが自分という個を認識させ、存在させます。
それすら拒否してしまうと、本当に自分ひとりだけの世界になって、場合によっては自壊してしまうのです。
だから他人と関わる世界では、時に傷つき、傷つけることがあるのですが、そこで自分以外の存在を否定せず、最適な距離感をみつける工程を繰り返すことで、はじめてお互いが平和に過ごせる世界になります。
国内外で起きている多くの争いごとや悲惨な事件が発生し続けている今こそ、この他人の存在を認め、お互いが良い距離感をみつけるということこそが必要であると考えます。
最後に、実際の動物としてのヤマアラシやハリネズミは、仲間同士で近づいて棘で傷つけあうようなことはないので、そこは人間関係における比喩としてご理解ください笑。